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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)3081号 判決

原告

羽賀正

ほか一名

被告

松岡満運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告羽賀正に対し、連帯して金七三二万三五三一円及び内金六七二万三五三一円に対する平成七年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告羽賀廣子に対し、連帯して金七三二万三五三一円及び内金六七二万三五三一円に対する平成七年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは原告羽賀正に対し、連帯して金三三〇〇万円及び内金三〇〇〇万円に対する平成七年六月九日(事故日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告羽賀廣子に対し、連帯して金三三〇〇万円及び内金三〇〇〇万円に対する平成七年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原動機付自転車を運転中、転倒して並進する大型貨物自動車に礫過され、死亡した者の遺族が、右車両の運転手に対し民法七〇九条に基づき、保有者に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づいて、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実及び争点判断の前提事実(以下( )内は認定に供した主たる証拠を示す)

1  事故の発生(争いがない)

(一) 日時 平成七年六月九日午後七時五五分頃

(二) 場所 兵庫県川西市多田桜木二丁目九番三号先路上

(三) 関係車両

被告新田運転の大型トレーラ(尾張小牧一一か九四二六号、帯一一け四三七号、以下「被告車」という)

羽賀由枝運転の原動機付自転車(豊能町あ二九六五号、以下「羽賀車」という)

(四) 事故態様

羽賀由枝が被告車に轢過された。

2  羽賀由枝の死亡(争いがない)

羽賀由枝(以下単に「由枝」という)は、右事故によつて脳挫滅のため即死した。

3  原告らの地位(甲二)

原告羽賀正(以下「原告正」という)、原告羽賀廣子(以下「原告廣子」という)は、由枝の父母であり、同女の権利義務を二分の一ずつ相続した。

4  被告会社の責任原因(弁論の全趣旨)

被告会社は被告車の保有者であり自動車損害賠償保障法三条の運行供用者に当たる。

5  損害の填補(争いがない)

原告らは自賠責保険金一五〇〇万円を受領している。

二  争点

1  免責、過失相殺

(原告らの主張の要旨)

被告新田は、事故当時、現場道路前方が工事のために一車線に規制されており、したがつて、並進中の羽賀車が被告車に接近して進行することが十分に予想される状況であつたにも拘わらず、あえて被告車を左側に寄せ、この結果驚愕した由枝をして原動機付自転車ごと転倒せしめ、由枝を被告車に巻込んだものであり、被告新田には安全運転義務違反の過失が認められる。

(被告らの主張の要旨)

本件事故は、由枝が原動機付自転車を運転中、路面の段差でふらつき、バランスを失い、被告車の走行車線上に倒れてきたため発生したもので、被告新田には過失がなく、被告会社は免責される。仮に、責任は否定できないとしても、大幅な過失相殺がなされるべきである。

2  損害額全般

(原告らの主張)

(一) 逸失利益 四九九五万〇四一一円

事故から一〇年間は平成六年の由枝の年収額二九〇万〇七九〇円を基礎に、生活費割合を四〇パーセントとして、算定する。

計算式二九〇万〇七九〇円×(一-〇・四)×七・九四五=一三八二万八〇六五円

その後三二歳からは、結婚後の主婦としての就労が予想されるから、平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計、女子労働者三〇歳から三四歳までの平均年収三九三万八五〇〇円を基礎に、生活費割合を四〇バーセントとして、算定する。

計算式三九三万八五〇〇円×(一-〇・四)×一五・二八六=三六一二万二三四六円

(二) 慰藉料 二五〇二万円

(三) 葬儀費用 一二〇万円

(一)ないし(三)の合計七六一五万〇四一一円から損害填補額一五〇〇万円を差し引いた六一一五万〇四一一円の内、各原告は三〇〇〇万円及び(四)相当弁護士費用三〇〇万円の総計三三〇〇万円及び内三〇〇〇万円に対する本件事故日から支払い済みまでの遅延損害金の支払を求める。

第三争点に対する判断

一  争点1(免責、過失相殺)について

1  裁判所の認定事実

証拠(甲三、五、六、七の1ないし21、八、九の1ないし3、検甲一ないし八、証人山本幸治、被告新田幸男本人、原告羽賀正本人)及び前記争いのない事実を総合すると次の各事実を認めることができる。

(一) 本件事故は、別紙図面のとおり、アスフアルト舖装された北行き一車線の市街地を南北に延びる道路上において発生したものである。本件事故当時、道路拡張工事がなされており、北行き車線の西側には外側線を隔てて、アスフアルトによつて荒く舖装された道路拡張予定地があり、右予定地は事故現場から南に一〇〇メートル以上延びており、北行き車線が二車線あるような外観を示しており、単車はしばしば右拡張予定地を走行していた(以下便宜上、車線部分を第二車線、拡幅予定地部分を第一車線という)。

第一車線と第二車線を合わせた幅員は約八メートル(以下のメートル表示はいずれも約である)であり、第一車線は別紙図面のとおり、事故現場付近において、ガードレールが斜めに設置されており、その南側には工事用のコンクリート電柱が置かれてあつた。第一車線と第二車線の舖装の境目付近に、凹凸があり、別紙図面〈ア〉付近(以下符号だけで示す)においても、アスフアルトが一〇センチメートル余り盛上つた状態であつた。

最高制限速度は時速四〇キロメートル、北進車からの前方の見通しは良好である。事故当時、日は暮れていたが、街灯等によつてさほど暗くはなかつた。

(二) 被告車は、幅員二・五メートル、長さ一四・六メートルの大型トレーラ車であり、その運転席部分がトラクタ、貨物付近がトレーラと呼ばれ、両者はカプラーと呼ばれる部分で連結され、ハンドルを切つた場合、トレーラ部分がトラクタより遅れて動くことがある。

(三) 被告新田は、第二車線が渋滞していたため、〈1〉において、被告車を一旦停止させていた。被告新田は、A、B付近に二台の単車が進行して来るのをバックミラーで認めたが、前方が空いたため発進したが、そのまま走行すると、前方の前記ガードレール付近において単車が近寄つてくることが予想できたため、これを防ぐべく、左に巾寄せしようと考え、若干左にハンドルを切りながら、時速約一五キロメートルの速度で〈1〉から二五メートル北の〈2〉まで達したときに〈ア〉付近において、由枝を巻込み、左後輪で同女を轢過し、羽賀車は、〈イ〉に転倒した。被告新田は横断歩道を過ぎたあたりで後方を確認し、一台しか単車が見えないことを知つたが、そのまま事故の発生に気づかず、〈2〉から一五八メートル進行した〈3〉において後続車の運転者から事故の発生を知らされ停止した。

(四) 由枝はAを時速二、三〇キロメートルで走行していたが、本件事故現場付近において時速一〇キロメートル程度に減速して〈ア〉に至つた際、バランスを崩して、路面に右足をつきながら横転した。

2  裁判所の判断

1の認定事実から見て、右事故の直前、由枝は被告車が巾寄せしてきたのに驚くと共に、その付近にアスフアルトの盛り上がり部分があつたため、運転を誤り転倒するに至つたと推認できる。

そこで検討するに、被告新田は、後方から羽賀車が迫つているのを認めていたのであり、前記道路状況から見て、羽賀車が自車の進路方向に迫つてくることは予想できたのであるから、発進を控える、あるいは警笛を鳴らして注意を喚起する措置をとつたうえ、羽賀車の動静に十分注意を払つて走行すべき注意義務があつた。しかるに、被告新田はこれに反し、被告車が制御しにくい構造であることを知りながら、左に巾寄せした結果、道路の凹凸も手伝つて由枝を轢過するに至つたもので、その過失の程度は小さくないものがある。他方、由枝も車道に進入するのであるから、車道上の被告車の動静に注意を厳にしなければならないのにも拘わらずこれを怠つたまま、進路を右に取つたもので、その過失の程度は重い。

右過失の内容を対比し、前記道路状況、大型自動車と原動機付自転車の事故であることを考えあわせた場合、その過失割合は、五対五と認められる。

二  争点2(損害額全般)について

1  逸失利益 三三六九万四一二六円(主張四九九五万〇四一一円)

証拠(甲四、原告羽賀正本人)によれば、由枝(昭和四八年三月一五日生、当時二二歳)は、健康な独身の女性であつて、短大卒業後、平成六年四月から東海銀行に勤務し、年二九〇万〇七九〇円の収入を得ていたことが認められる。

そこで、右年収を基礎とし、その生活費割合を五割、就労可能年齢を六七歳として、ホフマン方式により逸失利益を算定すると右金額が求められる。

計算式 二九〇万〇七九〇円×(一-〇・五)×二三・二三一=三三六九万四一二六円(円未満切捨・以下同様)

なお、原告ら主張の逸失利益の算定方法は不確定な要素が多く採用できない。

2  死亡慰藉料 二二〇〇万円(主張二五〇〇万円)

由枝の年齢、生活状況、由枝が脳挫滅という悲惨な状況で死亡したこと、その他本件審理に顕れた一切の事情を考慮して右金額が相当であると認める。

3  葬儀費用 一二〇万円(主張同額)

本件事故と相当因果関係がある葬儀費用は一二〇万円であり、弁論の全趣旨によれば、各原告が均等に負担したと認められる。

第四賠償額の算定

一  損害総額

第三の二の1ないし3の合計は五六八九万四一二六円である。

二  過失相殺

一の金額に前記被告新田の過失割合五割を乗じると、二八四四万七〇六三円(五六八九万四一二六円×〇・五)となる。

三  損害填補

二の金額から前記損害填補額一五〇〇万円を差し引くと一三四四万七〇六三円となる。

四  各原告の賠償額

1  三の金額に各原告の相続分である二分の一を乗じると、六七二万三五三一円となる。

2  相当弁護士費用は1の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、各原告につき六〇万円と認められる。

3  よつて、各原告の請求は、1、2の合計七三二万三五三一円及び内六七二万三五三一円に対する本件事故日である平成七年六月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

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